こんにちは。仙台の税理士、伊藤です。
先日、社労士資格を持たずに社会保険の手続きを有償で請け負っていた方が逮捕されたというニュースを見ました。
「そんなことで逮捕されるの?」と思う方もいるかもしれません。
でも、これがまさに“士業の線引き”の難しいところなんですよね。
実際、事業を数年やっている方でも、税理士業務と社労士業務の線引きがよく分からず、どちらに聞けばいいのか迷うというケースは少なくありません。
私自身も、相談を受ける中でそう感じる場面があります。
税理士業務とは
税理士法に定められた「独占業務」は3つあります。
- 税務代理(確定申告や税務署への届出・交渉など)
- 税務書類の作成(申告書、届出書、決算書など)
- 税務相談(税金に関する具体的な相談)
ざっくり言えば、「税金の計算・申告・相談」を有償で行うのは税理士だけです。
経理や会計の範囲は広いですが、根っこにあるのは“税金”。
社会保険や雇用保険の手続きは、法律上、別の専門家の領域になります。
社労士業務とは
社会保険労務士法で定められている独占業務は次の2つです。
- 労働社会保険の手続き代行(健康保険・厚生年金・雇用保険など)
- 労務管理の相談(就業規則、労働時間、賃金など)
つまり、社会保険の手続きや労務相談を“代行”して有償で行うには、社労士資格が必要になります。
「サービスの一環で」と気軽に対応してしまうと、法的には無資格業務とみなされる可能性があるので注意が必要です。
線引きがあいまいになりやすい理由
税金と社会保険は、どちらも「国に払うお金」というイメージがあるため、混ざりやすい分野です。
特にややこしいのが「扶養」という言葉。
税務では“扶養控除”の話になりますが、社会保険ではまた別の意味があります。
会社員(会社役員)の家族は、条件を満たすと
- 健康保険の「被扶養者」(保険料の自己負担なし)
- 年金の「第3号被保険者」(こちらも自己負担なし)
として扱われます。
一方、自営業の方が加入する国民健康保険には扶養制度がなく、家族もそれぞれ保険料がかかります。
このように、名前は似ていても制度ごとにルールが違うため、税金と社会保険の線引きが分かりにくくなるんです。
伊藤のスタンス
社会保険まわりの一般的なことなら、説明できなくはありません。
でも、私は社労士ではないので素人です。
心理学でいう「ダニング=クルーガー効果」──知識が浅いほど、自分の理解を過大評価してしまうという現象。
これを思い出すたびに、「知っているつもり」にならないよう気をつけています。
お客様から「健康保険ってどうなるんですか?」と聞かれることもありますが、
多くは(特に社保関係)私が説明することでかえって混乱を招くことがあるかもしれません。
ですので、社労士さんや役所に相談されるようにご案内するようにしています。
税金のことは税理士、労務のことは社労士。
それぞれの専門家が自分の持ち場で力を発揮する。
それがいちばん健全な形だと思うからです。
まとめ
「できるからやる」ではなく、「専門外だから任せる」。
士業に限らず、すべての仕事に通じる姿勢だと思います。
どちらに相談するか迷ったら、
“税”や“税務署”から届いたものについては税理士へ、
“保険”“年金”といった言葉が出るものや社会保険事務所から届いたものは社労士へ。
そんなふうに考えておくと、ひとまず安心です。
何年も事業を続けていれば、自然と慣れて分かってきます。
最初のうちは迷って当然ですし、その都度確認しながら覚えていけば大丈夫です。
税理士は税金、社労士は労務。
このシンプルな線引きを、これからも大切にしていきたいと思います。
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伊藤 功明(税理士)
仙台を拠点に、個人事業主や小さな法人の税務をサポートしています。
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