こんにちは。仙台の税理士、伊藤です。
開業したての方からよくある質問に、
「生活費って、どうやって引き出せばいいんですか?」というものがあります。
個人事業主のときは自由に使えていたのに、
法人にしたら一気にルールが増えて混乱…という声も多いです。
今日はそんな「生活費の資金移動」の基本を、やさしく整理してみます。
個人事業主はわりと自由。引き出してOK
個人事業主の場合、基本的にお金の出入りに制約はありません。
事業用口座から個人口座にお金を移して生活費に充てても問題なし。
帳簿上は「事業主貸」として処理します。
たとえば、売上が入った口座から毎月20万円を生活費として移す。
この場合も「事業から自分に移した」だけの話です。
ただし注意したいのは、税金や経費の支払い分まで使い込まないこと。
所得税や消費税、年金や健康保険料などはあとからまとめて払うので、
手元のお金を全部使ってしまうと資金ショートのもとです。
個人事業主は「自由だけど自己管理がすべて」。
ざっくりでもいいので、
「これは事業用、これは生活費」と口座を分けておくと安心です。
法人はルールがある。「会社のお金=自分のお金」ではない
一方、法人になるとお金の扱い方がガラッと変わります。
法人と個人はまったくの別人格。
会社の口座にあるお金は“社長のもの”ではなく、“会社のもの”。
そのため、生活費や個人の支出は、
原則として毎月の給与(役員報酬)の中でまかなうことになります。
たとえば「今月ちょっと余裕あるから、会社口座から生活費を引き出そう」
──これをやってしまうと、帳簿上は「役員貸付金」が発生します。
つまり、会社がお金を社長に貸したことになる、という扱いです。
この状態が続くと、会社の財務状況が悪く見えてしまいます。
金融機関の決算書チェックではマイナス評価になり、
融資の審査で不利になることもあるので注意が必要です。
立て替えや会社への入金は「役員借入金」で整理
ただ、個人と法人の間でお金の行き来が発生すること自体は普通です。
たとえば、
- 個人の財布から会社の経費を立て替えた
- 一時的に資金繰りのため、個人から会社に入金した
このような場合は「役員借入金」として処理します。
会社が社長にお金を借りた、という形ですね。
そして、会社に余裕ができたときに
その借入金の範囲内で個人口座へ返すのは問題ありません。
大事なのは、借入金の範囲を超えて引き出さないこと。
それを超えると、さっきの「役員貸付金」となり、
帳簿上マイナスになってしまいます。
法人成りしたら、お金の通り道を分けよう
個人事業主のときは、事業と生活が混ざっていても何とかなります。
でも法人になると、「お金の通り道」をきちんと分けることが大切です。
事業用口座、個人口座、クレジットカードをそれぞれ分けておくと、
経理がスムーズになり、税金の計算もクリアになります。
会社のお金は会社のもの。
自分のお金は自分のもの。
このシンプルな線引きを守るだけで、
法人経営のトラブルはぐっと減ります。