消費税簡易課税の落とし穴|工事なのにサービス業扱いされるケース

こんにちは。仙台の税理士、伊藤です。

今回は「消費税の簡易課税制度」について、概要から事業区分の考え方、判例や具体例まで整理してみたいと思います。


消費税簡易課税の概要

簡易課税制度は、前々事業年度(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できる仕組みです。

通常の消費税計算では「受け取った消費税-支払った消費税」で納税額を求めますが、簡易課税では「支払った消費税」を実額で計算せず、業種ごとに定められた“みなし仕入率”を用いて仕入控除額を計算します。

業種ごとのみなし仕入率は次のとおりです。

  • 第1種(卸売業):90%
  • 第2種(小売業):80%
  • 第3種(製造業・建設業など):70%
  • 第4種(飲食業):60%
  • 第5種(サービス業など):50%
  • 第6種(不動産業):40%

事業区分の概要

どの区分に当てはまるかは実務上とても重要です。
なぜなら 「建設業(70%)」と「サービス業(50%)」では、控除できる割合に20%もの差 が出るからです。

区分の判定は「請求書の名称」ではなく、実態として何を提供しているかに基づきます。


判例:歯科技工所事件

簡易課税の区分を考える上でよく引き合いに出されるのが 「歯科技工所事件」 です。

一見すると、歯科技工所は“物を作って納品する”ため製造業(第3種)に見えます。
しかし裁判所は、技工物の製作は個別患者に合わせた役務提供に近いとして、サービス業(第5種)に分類するのが妥当 と判断しました。

このとき裁判所が重視したのは、

  • 日本標準産業分類(JSIC)での位置づけ
  • 原価率がみなし仕入れ率50%に近似

です。つまり、産業分類と原価構造を踏まえて総合的に判断する という考え方が確立しています。


具体例:防蟻工事(シロアリ防除工事)の事業区分は?

ここで具体例を見てみましょう。

「防蟻工事」という名称からは、一見、塗装工事に分類され「建設業(第3種)」に思えます。
しかし、日本標準産業分類を確認すると、以下に該当すると考えられます。

  • 9295:ペストコントロール業
  • 9229:その他の建物等維持管理業
  • 922 :建物等維持管理業

いずれも サービス業(他に分類されないもの) の区分に含まれます。

さらに、防蟻工事は薬剤などの材料費よりも、作業にかかる人件費や役務提供の割合が大きい業務です。この点から見ても、第5種(サービス業)のみなし仕入率50%に近い構造 といえます。

上記より、防蟻工事の事業区分は第5種(サービス業など)に該当すると考えられます。


まとめ

  • 簡易課税制度は、前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択可能
  • 区分判定は「名称」ではなく「実態」で決まる
  • 歯科技工所事件では、日本標準産業分類と原価率が判断の基準になった

実態と分類をきちんと見て整理することが大切 です。