「順調に見える時期」こそ危険?法人化と役員貸付金の関係

こんにちは。仙台の税理士、伊藤です。

法人化を考えるときに、よく耳にするのが「消費税の免税メリット」。特に個人事業を2年ほど続けてきて、売上も増えてきたし、そろそろ法人化かな?という相談は多いです。

ただ、この免税メリットだけを理由に動いてしまうと、思わぬ落とし穴が待っていることもあります。その代表例が「役員貸付金」です。


法人化に隠れた落とし穴

たしかに法人を立ち上げると、最初の2年間は消費税が免税になる可能性があります。これは大きなメリットですよね。

でも同じタイミングで「まだ売上が少ない」「投資にお金を回してキャッシュがきつい」という状況に重なることも多いんです。広告や設備に投資したり、生活費を事業から出したりして、気づけばお金がどんどん減っている。

しかも、売上が伸びてスタッフも増え、「なんとなく順調にきているな」と感じている時期ほど要注意です。見た目には好調でも、実際にはキャッシュが足りていないこともあります。

そんなとき、法人化したタイミングでよく出てくるのが「役員貸付金」という科目です。必ずしも全員に当てはまるわけではありませんが、資金繰りが厳しいと貸借対照表に現れやすい項目です。


役員貸付金はマイナス評価されやすい

役員貸付金というのは、ざっくり言うと「会社が社長にお金を貸している」形になっているもの。見方を変えれば「会社のお金が事業以外に流れている」と思われかねません。

たとえ事業の支出であっても、「資金繰りに追われている会社」という印象を持たれ、追加の融資は慎重になりがちです。税務的にも「役員賞与」とされるリスクが出てきます。


役員貸付金は早期解消が基本。ただし無理な方法は本末転倒

「銀行から融資を受けたいから、早く役員貸付を消したい」──そんな気持ちになる方も多いと思います。

実際、役員貸付金は早めに整理しておいた方がいいのは事実です。放置すれば金融機関からの評価は下がりますし、税務リスクも抱えることになります。

ただし、焦って消そうとするあまり、役員報酬を高めに設定して相殺するのは要注意です。社会保険料が一気に増えて、毎月のキャッシュが苦しくなり、結局は本末転倒になってしまいます。


役員貸付金がブレーキになることも

皮肉な話ですが、役員貸付金が残っているおかげで銀行が慎重になり、結果的に無理な拡大を防いでくれることもあります。

短期的には窮屈でも、長い目で見ると“倒れないためのブレーキ”になっているケースもあるんです。


まとめ

法人化や借入は目的ではなく手段。

まずは投資した分をきちんと回収して、キャッシュフローを安定させることが大事です。

足元を固めて続けていくことが、結局はいちばんの近道になります。