税理士の仕事は、バイアスをほぐすこと

こんにちは。仙台の税理士、伊藤です。

最近読んだ本に『「バイアス社会」を生き延びる』(中野信子著)があります。


脳科学者の中野さんが、「私たちはどんなメガネで世界を見ているのか」をテーマに、人の認知の歪み(=バイアス)について語っています。

情報を処理するとき、私たちはつい「自分にとって都合のよい情報」や「わかりやすいもの」ばかりを選んでしまう傾向があります。
その結果、誤った思い込みや偏見が生まれやすくなる──本書の冒頭で指摘されていた言葉がとても印象的でした。


SNS時代に広がる「わかりやすさの罠」

SNSでは、難しい内容を「わかりやすく伝える」ことが重視されます。
もちろん、それ自体はとても大切です。
ですが、わかりやすさの裏には“バイアス”が潜んでいることもあります。

たとえば、節税テクニックの投稿。
「これをやれば税金が安くなる!」という情報が並びますが、そこには必ず前提条件やリスクがあります。
切り取られた情報だけを見ると、まるで“お得にできる裏ワザ”のように感じてしまう。
でも実際には、その方法がすべての人に当てはまるわけではありません。


自分で調べるのはすごいこと。でも——

自分で情報を集めて勉強すること自体は、すごく良いことです。
むしろ、そういう姿勢を持つお客様ほど、話が早く、理解も深い。
ただ、ひとつ意識しておきたいのは「この情報には、どんなバイアスがあるだろう?」という視点です。

投稿者の立場、目的、使っているデータの範囲──。
それらを踏まえて見直すと、「正しいけれど、自分には当てはまらない情報」が意外と多いことに気づきます。


税理士の仕事は、バイアスを解きほぐすこと

私たち税理士の仕事は、単に正しい答えを出すことではありません。
「正しいことは正しい」と伝え、「認識が違うことは訂正し」、「メリットしか見えていない場合はリスクも提示する」。
そうやって、お客様の中にある“バイアス”を少しずつほぐしていくことが、実はとても大切だと感じています。

難しい節税スキームや、複雑な投資の仕組みを真似しようとするのは悪いことではありません。
ただ、そこには高度な知識や経験が必要なこともあります。
その場合は、最初から大手の税理士法人さんなど、専門チームに依頼するのが安心です。


「誰のメガネで世界を見ているのか」

本書の副題にもあるように、私たちは常に誰かのメガネを通して世界を見ています。
SNS、ニュース、専門家の発言──すべてにバイアスはあります。
だからこそ、自分の中にも“見え方の偏り”があることを知っておく。
それだけで、判断の精度がぐっと上がります。

税金も、情報も、人生も。
「正しさ」よりも「納得感」で選べるように。
そんな視点を持って、日々の判断を積み重ねていきたいですね。


伊藤 功明(税理士)
仙台を拠点に、個人事業主や小さな法人の税務をサポートしています。
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