お金を取れば解決?──罰金効果に見るサービス設計の落とし穴

こんにちは。仙台の税理士、伊藤です。

以前、ドラマ『義母と娘のブルース』でこんな場面がありました。
運動会の駐輪場が混雑するのを防ぐため、
「有料にすれば利用者が減るだろう」と考えたところ、
逆に「お金を払ってでも停めたい人」が増えてしまい、かえって混雑した──という話です。

人の行動って、思っているよりずっと繊細です。
「負担を設ければ抑制できる」と思っても、
それが“サービス化”として受け取られると、
逆に利用や依頼が増えることもあります。


お金が入ると、行動の意味が変わる

この現象は、ドラマの中でも触れられていたように、
行動経済学でいう「罰金効果(A Fine is a Price)」に近いものです。
イスラエルの保育園では、親が迎えに遅れることが多かったため、
「遅刻したら罰金」を導入しました。
ところが、結果は逆。遅刻が増えたのです。

理由はシンプルで、
「罰金を払えば遅れていい」と考える親が増えたから。
“倫理的に避けたい行動”が、“お金を払えば買える行動”に変わってしまった。


私の身近な経験から

以前、勤務していた会計事務所で全員参加のブログ執筆を始めたときのこと。
誰も書かないので、「書いた人にはQUOカード500円」と報酬をつけたのですが、
それでも誰も書きませんでした。

むしろ、「500円いらないから書かないでいい」という逆効果。
“みんなで協力してやること”が、“やるかやらないかを選べる仕事”に変わってしまった。
この時も、行動の意味が変わった瞬間をはっきり感じました。


ルールを決める前に見ておきたい“人の心理”

この「罰金効果」のような現象は、
実はビジネスやサービス設計にも関係します。
たとえば、
「トラブルを防ぐために有料化したら、今度は別の不満や混雑が生まれる」
といったケース。

お金を取ることで、
“遠慮してもらう”よりも、“お金を払うからやってもらう”に変わる。
つまり、意図せず行動の意味を変えてしまうことがあるんです。

だからこそ、
サービスを有料にする・しないを決めるときは、
単にコスト回収のためではなく、
「お金を取ることでどういう行動を生むか」「関係の温度がどう変わるか」を考える必要があります。

トラブル回避のための仕組みが、
別のトラブルを招くこともある。
いっそ「有料ではなく、きちんとしたサービスとして提供する」など、
設計の意図を明確にするほうがうまくいく場合もあります。


まとめ

お金を介することが悪いわけではありません。
ただ、価格をつけた瞬間に、人の行動や関係の意味が変わることがある──
その前提を理解しておくと、サービスづくりや値付けの見え方が少し変わります。

価格とは、単に数字ではなく、
その背景にある意図や関係性そのものを表すもの。
「どんな関係でありたいか」を軸に考えると、
トラブルを避けながら、より気持ちのいいサービス設計につながると思います。


伊藤 功明(税理士)
仙台を拠点に、個人事業主や小さな法人の税務をサポートしています。
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