“仕事で使ってるのに”が通じない理由。スーツと車の違い

こんにちは。仙台の税理士、伊藤です。

スーツって、仕事で着るものだし「経費で落とせるんじゃ?」と思ったこと、ありませんか?
取引先との打ち合わせや営業で使うものですし、ついそんな気持ちになりますよね。

でも残念ながら、スーツや革靴は基本的に経費になりません。
今回はその理由と、うっかり事業用カードで買っちゃったときの扱いをまとめてみます。


なぜスーツは経費にならないのか

理由はシンプルで、仕事と私生活の線引きができないからです。
スーツや革靴は見た目こそビジネス用ですが、冠婚葬祭などでも着られます。

税金の世界では、「どこまでが仕事で、どこからが私生活か」を区分できない支出は経費にできません。
スーツはまさにその典型です。


車はパーセンテージでいけるけど、スーツはダメな理由

「車は仕事とプライベートを分けて経費にできるのに、なんでスーツはダメなの?」
よく聞かれる質問です。

違いは、使い方を客観的に区分できるかどうか。

車なら走行距離がメーターに表示されるので、
「仕事で○km、私用で○km」といった記録が取れます。
つまり、使った割合を数字で説明できる“道具的な性質”を持っています。

一方スーツは、「仕事中に何時間着ていたか」を測ることはできませんし、
私生活でも着られる衣服です。
そのため、税務上は生活費に近い“家事費的な性質”と判断されます。

実際、東京高裁・昭和45年4月30日(タクシー運転手事件)では、
自家用車を副業に使っていた納税者が、業務使用の記録を残していたことで、
その分が経費として認められました。

スーツとの違いは、この「記録で説明できるかどうか」です。
税金の世界では、主観ではなく数字と証拠がすべてなんですね。


「京都地裁の判決」に見る線引き

スーツの経費扱いは、昔から何度も争われています。
有名なのが京都地裁・昭和49年5月30日判決です。

この裁判では、スーツ代を経費にした納税者に対し、
税務署が「私生活でも使える」として否認。
裁判所も次のように述べました。

『被服費は一般に家事費。ただし、仕事に必要な部分を他と明確に区分できる場合に限り、経費とする余地がある。』

しかし「どのスーツをどんな業務で着たか」の証拠がなく、
最終的には経費として認められませんでした。
この「区分できない支出はNG」という考え方が、今も続いています。


事業用カードで買っちゃったら?

スーツを事業用カードで買ってしまった場合は次のとおりです。

  • 個人事業主:経費ではなく「事業主貸」
  • 法人
     ・立替なら「役員貸付金」
     ・会社が負担したなら「役員給与(経済的利益)」

どちらにしても、会社の経費(損金)にはなりません。
特に給与扱いの場合は、役員個人に所得税・住民税(源泉徴収あり)が課されます。


例外的にOKなケースも

ごく一部ですが、次のようなケースなら経費になることもあります。

  • 社名入りの制服・作業服など、私服では使えないもの
  • 舞台衣装など、明らかに日常で使えないもの

要は「私生活で使えない」とハッキリ言えるものだけが、例外的にOKです。


まとめ

スーツや革靴は、たとえ仕事用でも原則経費になりません。
理由は「私生活と区分できないから」。

一方で車のように、使った割合を数字で説明できる“道具的な性質”があるものは、
業務割合に応じて経費にすることができます。

税金の世界では、主観ではなく証拠。
「どれだけ仕事で使ったか」を数字で示せるかどうかが、経費か否かの分かれ道です。


伊藤 功明(税理士)
仙台を拠点に、個人事業主や小さな法人の税務をサポートしています。
[事務所ホームページへ]