こんにちは。仙台の税理士、伊藤です。
先日、第22回開高健ノンフィクション賞を受賞した窪田新之助さんの『対馬の海に沈む』を読みました。
長崎県対馬市のJAで「神様」と呼ばれた営業マンが、巨額の不正を抱えたまま海に消えてしまった事件を追ったノンフィクションです。重たいテーマですが、読み進めるほどに「個人と組織の関係」「成果を出すことの代償」について深く考えさせられました。
営業マンは誰のために成果を出していたのか
本書が描くのは、突出した営業成績を上げ続けた一人の職員の姿です。
「神様」とまで称えられ、年収も跳ね上がり、組織からは表彰される。しかしその裏で、巨額の不正を積み上げていた。
ここで強く感じたのは、彼自身が「自分のために」成果を出していたというよりも、組織の期待に応えるために踊らされていたのではないか、ということです。
営業マン本人は重圧に押しつぶされ、不正に手を染め、最後には命を落とす。一方で、組織は彼の数字のおかげで業績を維持し、上司も表彰され、同僚もノルマを肩代わりしてもらって得をする。誰が最も得をしていたかと言えば、結局は「組織」だったのです。
自営業の世界にもある「踊らされる構造」
この構図は、私たち自営業にも無関係ではありません。
売上が前年比で伸びていると、銀行や協力会社、フランチャイズ本部、そして周囲の仲間から評価されます。
「勢いのあるお店」「伸びている事務所」と見られることは確かに嬉しいものです。けれど、その裏側で必要以上の投資や人件費が膨らみ、自分の手元に残るお金や余裕はむしろ減ってしまうことも珍しくありません。
つまり、売上が増えると周囲が得をしやすい構造は、どこにでもあるのです。
協力会社は受注が増えて潤い、銀行は融資や利息で儲かり、フランチャイズ本部はロイヤリティ収入を得る。取引先は「無茶な依頼」を通せるようになり、所属する団体や仲間内では“成功している自営業者”として名を挙げられる。
一方で当の本人は「責任」と「負担」を背負い続ける。
「踊らされる構造」という点で、『対馬の海に沈む』に描かれた営業マンの姿と重なって見えました。
「売れる」より「続けられる」ことを選ぶ
もちろん、売上を伸ばすこと自体が悪いわけではありません。
問題は、それが自分にとって意味のある成長かどうか。
周囲の評価のために無理をして拡大するのではなく、自分自身が「この規模なら無理なく続けられる」と思えるところで足場を固めること。
それこそが、長く事業を続けるために大切な姿勢だと、あらためて感じます。
まとめ
『対馬の海に沈む』は、一人の営業マンの不正事件を追ったノンフィクションですが、単なる告発本ではなく、成果を求める組織と、成果に踊らされる個人の関係を深く問いかける作品でした。
読後感は重たいものの、自営業者である私自身にとっても大きな学びでした。
数字を追うあまり、周囲が得をして自分は疲弊していないか?
その問いを常に持ちながら、私は「売れるより、続けられる商売」を選んでいきたいと思います。
過去にも似たような記事を書いているので、併せてどうぞ。