こんにちは。仙台の税理士、伊藤です。
最近、令和9年分以降に始まる「青色申告特別控除75万円」について調べています。
一昔前、電子申告で青色申告特別控除が65万円になった際は、税理士事務所では電子申告が当たり前でした。そのため、特に大きな混乱もなく適用していた記憶があります。
しかし今回の75万円控除は、要件がなかなか厳しそうです。
SNSや自分の周りの税理士界隈でも議論になっており、「これ実際どうなるんだろう?」という声をよく見かけます。
今回は現時点で調べた内容や気になっている論点をまとめてみます。
なお、この記事は解説記事ではありません。まだ制度開始前で不確定な要素も多いため、あくまで現時点(2026年6月15日)でのメモと考察です。
制度概要
令和9年分以降、一定の要件を満たした個人事業主は青色申告特別控除75万円を受けられる予定です。
従来の65万円控除に加え、「優良な電子帳簿」によって10万円上乗せされるイメージです。
優良な電子帳簿の要件については国税庁の資料が公表されています。
ポイントとなるのは、帳簿が保存場所において次の要件を満たしていることです。
イ 訂正削除履歴の保存等
ロ 帳簿間の相互関連性
ハ 検索機能の確保
この中でも、私は「保存場所」が大きなポイントになるのではないかと考えています。
記帳代行だとどうなる?
電子帳簿保存法そのものを見る限り、「保存場所」に関する規定は見当たりません。
そのため、保存場所については所得税法等の帳簿保存義務側の考え方が適用されることになります。
所得税法上、帳簿は原則として「納税地等」に備え付けて保存することになります1。
個人事業主の納税地は、原則として住民票のある住所地です。
関与先様ご自身で会計ソフトを導入し、日々の入力も行っている場合は、会計ソフトがお手元にありますので、基本的には問題ありません。
一方で、税理士事務所へ記帳代行を依頼している場合はどうでしょうか。
多くの場合、会計ソフトは税理士事務所側にあります。
試算表や総勘定元帳、申告書の控えなどは顧問先に納品していることが一般的です。しかし、顧問先側では会計ソフト上で帳簿を検索したり閲覧したりできないケースもあります。
そう考えると、
「納税地」
そして
「備付け」
の解釈が重要になりそうです。
※固定資産台帳も同様の運用が必要、という考え方もあるようです。
ただ、青色申告特別控除の対象となる帳簿は「仕訳帳・総勘定元帳のみ」(措置法施行規則第9条の6第2項)とされていることから、固定資産台帳まで同様の運用は求められないのではないかとも考えられます。
論点① 税理士事務所は納税地等に含まれるか
WEBで調べてみると、
「大企業のシステム部門が別拠点でも認められるので、税理士事務所も納税地等に含まれると考えられる」
という見解は見つかります2。
もしこの考え方が認められるのであれば、記帳代行への影響はかなり小さくなりそうです。
ただし、現時点では国税庁の明確なQ&Aや見解は確認できていません。
論点② 「備付け」とは何を指すのか
こちらも気になるポイントです。
一般的に考えると、納税地に会計ソフトがあり、
- 帳簿を閲覧できる
- 検索できる
- 出力できる
状態を指すように思えます。
ただ、制度趣旨を考えると、解釈を拡大できる余地もあるんじゃないかと考えます。
75万円控除は、帳簿の提出を求められた際に迅速に対応できることや、会計ソフトの利用を促進することも目的の一つだと思われます。
そうすると、
例えば税理士事務所がデータを管理していて、
- 税理士に連絡すればすぐ出せる
- すぐ閲覧できる
という状態が「備付け」に含まれるのか、このあたりも現時点では判断が難しいところです。
ここまでまとめていると、「じゃあ個人事業主、みんな自計化すりゃいいじゃん!」って思うかもしれません。
とはいえ、個人的には「みんな自計化すればいい」という話でもないと思っています。
よく見る解説記事では、対策として「会計ソフトを導入しましょう!」とまとめられているものもあります。ただ、個人的には少し話を単純化しすぎている印象もあります。
個人事業主の場合、本業だけでも十分忙しいものです。
経理が好きだったり、数字を見るのが得意な方なら良いのですが、そうでない方まで無理に自計化する必要はないと考えています。
むしろ、税理士に記帳代行を依頼して、その時間や労力を本業に使った方が良いケースも多いでしょう。
私自身も、基本的にはその考え方です。
だからこそ、「75万円控除のために全員自計化しましょう」という方向ではなく、記帳代行を利用している方でも制度を活用できる方法がないか気になっています。
対応策
パターン① 税理士事務所が納税地等に含まれる場合
上記の論点①と②について肯定的な解釈がされるのであれば、記帳代行の場合でも大きな運用変更は不要かもしれません。
現在の運用のまま75万円控除を満たせる可能性があります。
パターン② 税理士事務所が納税地等に含まれない場合
この場合は何らかの対応が必要になりそうです。
現実的な案としては、
- 関与先様側に会計環境を用意する
- 事務所は弥生会計で記帳する
- 毎月データを同期する(バックアップデータの送付で事足りるならいいですが)
といった運用が候補になります。
これであれば、関与先様側でも要件イロハを満たす可能性は高いと考えます。(要検討ではありますが。)
会計ソフトの選択ですが、私の場合、現時点ではデスクトップ版「やよいの青色申告」が有力候補かなと思っています。会計事務所側で利用している弥生会計との連携がしやすい点が大きな理由です。
(一方で、弥生の青色申告オンラインは、個人的にはUIやデータ連携の面でやや使いづらい印象があります。)
しかしながら、会計ソフトを導入するとなれば利用料も発生します。関与先様で管理する手間も生じます。(税理士側の同期工数は調べる必要あり)
追加コスト(+手間)と10万円控除による節税効果を天秤にかけながら、関与先様ごとに提案していくことになりそうです。
まだ結論は出ていません
今回いろいろ調べてみましたが、正直なところ、まだ結論は出ていません。
制度開始までまだ時間があります。
今後の国税庁Q&Aや各ソフト会社の対応を見ながら、周囲の同業者とも情報交換しつつ、引き続き調べていこうと思います。
また、仮に75万円控除の対象になる可能性があるとしても、現時点で要件の解釈が固まっていない以上、「とりあえず適用しておきましょう」というわけにはいきません。
一方で、何も説明せずに従来どおり65万円控除で申告するのも不誠実だと思っています。
そのため、制度開始が近づいてきたら、対象になりそうなお客様をピックアップし、
「現状の運用だと適用できる可能性があります」
「適用するにはこういう対応が必要になる可能性があります」
といった点をご説明した上で、ご相談しながら進めることになるのかなと思っています。年末くらいに。
新しい情報が出てきたら、またブログでまとめるかもです。
※なお、75万円控除の要件には、電子取引データ等を会計ソフトへ自動連携・保存する方法もあります。
ただ、個人的には優良な電子帳簿保存よりも、こちらの方が記帳代行ではハードルが高そうに感じています。
そのため、本記事では優良電子帳簿保存側の論点に絞って考察しています。
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伊藤 功明(税理士)
仙台を拠点に、個人事業主や小さな法人の税務をサポートしています。
[事務所ホームページへ]
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- https://www.zeiken.co.jp/zeikenpress/column/0018zp20220706/ (2026/6/15アクセス) ↩︎
- http://www.sakumakaikei.com/writing/199806zeiri/index.html (2026/6/15アクセス) ↩︎
