こんにちは。仙台の税理士、伊藤です。
最近SNSで「業務委託も従業員に入れて〜」みたいな投稿を見ました。
たしかに、社長ひとりの会社なのに、ホームページのスタッフ欄にずらりと顔写真が並んでいたりしますよね。
よく見ると、実はみんな業務委託だったり、月1回だけ相談している人だったり。
「いや、それもう外注さんでは?」と思いつつ、「自分を大きく見せたいんだな」と妙に納得してしまう瞬間でもあります。
さて、余談はこのくらいにして。
今回は、業務委託と雇用のちがいについて整理してみます。
業務委託と雇用契約のちがい
まずは基本の整理から。
「雇用契約」と「業務委託契約(請負・委任)」、名前は似ていても中身はまったく別物です。
雇用契約は、時間と指揮命令がセット。
会社の指示にしたがって働き、勤務時間や場所も決まっています。
そのかわり、労働基準法が適用され、社会保険や労災の対象にもなります。
一方、業務委託は、成果物を納品して報酬を受け取る関係。
仕事の進め方や時間の使い方は、基本的に本人の自由です。
「結果で評価される」のが業務委託、「過程も管理される」のが雇用、というイメージですね。
「1社専属」はグレー。実態で判断される
よくあるのが、「1社専属で仕事しているけど、契約は業務委託」というケース。
平日毎日その会社の案件をこなし、名刺やメールも会社名義。
この場合、形式上は委託でも、実態はかなり雇用に近いです。
とはいえ、「1社専属だからアウト」ではありません。
厚労省の基準でも、勤務時間・指揮命令・報酬の決め方などを総合的に見て判断するとされています。
つまり、ひとつの要素だけで決まるものではなく、全体のバランスが大事なんです。
材料支給・場所拘束・機材負担もポイント
もうひとつの見極めポイントが、業務の自由度です。
たとえば、
・会社が材料や道具を支給している
・勤務時間や作業場所を指定されている
・会社の設備を使ってしか仕事ができない
こうなると、実態としては「独立した事業者」というより、会社の一員に近い働き方になります。
契約書に「業務委託」と書いてあっても、実際の働き方が雇用そのものなら、雇用契約と判断されることもあります。
日本郵便輸送事件(最判平成24年3月13日)
この「実態重視」の考え方をはっきり示したのが、日本郵便輸送事件という最高裁判決です。
郵便物の輸送ドライバーが、勤務日や勤務時間、ルートまで会社に細かく指示されていたケース。
契約上は「請負」でしたが、実際には会社の車両を使い、他の仕事を自由に受けることもできませんでした。
最高裁はここで、
実質的には使用従属関係がある=労働者にあたる
と判断。
つまり、「契約書に書いてあること」よりも「実際にどう働いているか」が重視される、という原則を明確にした判決です。
形式より実態。ここが最大のポイントです。
消費税の仕入税額控除のリスク
消費税の観点から見ても、業務委託と雇用の区分はとても重要です。
給与や賃金の支払いは「課税仕入れ」ではないため、仕入税額控除の対象外。
実態が雇用なのに、請求書をもらって外注費として処理していると、税務署から「これは給与ですね」と否認されるおそれがあります。
その結果、
- 源泉徴収漏れ
- 消費税の仕入控除否認
というダブルパンチになることもあります。
さらに、正しく外注費として扱う場合でも、インボイス登録番号があるかどうかで控除できるかが変わります。
委託先が免税事業者なら、その分の仕入税額控除はできません。
つまり、業務委託か雇用かの判断は、単なる契約の話ではなく、消費税にも直結する重要な税務リスクなんです。
雇用から業務委託に切り替えた人は要チェック
最近は「社員から業務委託に切り替えました」という話もよく聞きます。
リモートワークや副業の流れで、フリーランス化が進んでいるからですね。
ただ、名ばかり業務委託だと、労務上も税務上もトラブルのもと。
報酬の決め方、成果物の定義、責任の範囲など、雇用とはまったく別の設計が必要です。
このあたりを曖昧にしてしまうと、結局どちらの保護も受けられない立場になりかねません。
自分の働き方を、もう一度見直してみよう
結局のところ、業務委託か雇用かは契約書より実態で決まるものです。
「他の仕事を自由に受けているか」「自分の判断で動けているか」
この2点を整理してみると、見えてくるものがあるはずです。
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伊藤 功明(税理士)
仙台を拠点に、個人事業主や小さな法人の税務をサポートしています。
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